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磯貝勝太郎『司馬遼太郎の幻想ロマン』

尾崎秀樹没後、時代小説で信頼できそうな文芸評論家は
磯貝勝太郎かしら。文庫の解説から教わることは多いし、
谷沢永一『紙つぶて(全)』(文春文庫,1986)161頁も
磯貝を「文献資料に詳しい」と御墨付。そこで借りたのが
磯貝勝太郎『司馬遼太郎の幻想ロマン』(集英社新書,2012)。

デビュー作「ペルシャの幻術師」から始まり、
直木賞受賞作『梟の城』を経て細々と(?)続く、
司馬の幻想小説の系譜を本書は論じております。
生家を訪れて、ユーラシアへと連なる竹内街道に、
司馬文学の原風景をみようとする件は理解できたけど、
途中から文字通り延々と展開される密教の話は、
浅学菲才の小生にはさっぱりチンプンカンプン(;_;)
勉強して出直してまいりますm(__)m

司馬史観とか俗に言われてるし、
あたかも全てが史実に基づくかのごとく
世間に受けとめられてそうな代表作ではないけど、
『妖怪』(講談社文庫,2007新装版)上・下や
『大盗禅師』(文春文庫,2003)のことは本書で知った(^_^;)
『梟の城』も個人的には好きな作品だったし、
両作品も試しに借りたら、奇想天外で面白かったため、
速攻でブックオフへ行き、美品のを購入(^^)

でも、『司馬遼太郎全集』(文藝春秋)の作品解説を担当した
谷沢永一(第二期)と向井敏(第三期)の2人による
対談「硬派を貫き通したひと」(本の話2000年4月号)14~15頁に
次のような件があった(なお、第一期の担当は尾崎秀樹)。

  向井 それと司馬さんが絶版にした本があるでしょ。

  谷沢 短篇でもいくつかあるし、それから長篇で二つあるよ。

  向井 そのほかに現代ものの中篇が二つ。・・・長篇の一つ、
     『城をとる話』っていうのは、あれはべつに絶版にしなくても
     いいような面白い話だったのにねえ。

  谷沢 面白い。でね、司馬さんらしい小説であって、とにかくどうして
     絶版にしたのか僕は理由が分からない。

  向井 ・・・あれはもったいないなあ。

  谷沢 もう一つの長篇『大盗禅師』のほうは、まあ分からんでもない。

  向井 絶版にした理由がいちばんはっきりしているのは
     『豚と薔薇』でしょう。現代小説で、しかもミステリーという、
     司馬さんにこういうものがあるとは信じられないような作品なんだが・・・

誰が主人公なのか不明なままだし、結末も肩すかしだったけど、
『大盗禅師』は個人的には読んで楽しめた^^;

さて、司馬と海音寺潮五郎の深い関わりにも本書は紙幅を割きます。
海音寺の強力な推しで、「ペルシャの幻術師」も『梟の城』も
ともに当選・受賞できた事実も詳述した上で断言します(本書38頁)。
  
  司馬は海音寺のおかげで世に出たのだといえよう。

ここで思い出したことがあるので、一応メモっておこう。

借りて読んだという記録しか手帳にない(再読価値ナシということか)、
寺内大吉&永井路子『史脈瑞應~「近代説話」からの遍路』(大正大学出版会,2004)。

同書、てゆーか、寺内によると、
「ペルシャの幻術師」の当選も『梟の城』の受賞も実は寺内のおかげとか。
「わしが育てた」の類いみたい^^;

『梟の城』に否定的だった選考委員の源氏鶏太に、この忍者小説は
朝日新聞=伊賀者と毎日新聞=甲賀者の対照的な特ダネの作り方を
産経新聞記者の司馬が描いた作品、と寺内が解説して評価を改めさせた由。

丸谷才一はエッセイ「道鏡の口説き方」で、この本&話を紹介して、
次のように書いている(同『人形のBWH』[文春文庫,2012]355頁)。

  わたしはこれを読んでびつくりしてね。『梟の城』が朝日新聞と毎日新聞なんて、
  そんなこと意外きはまる。鳩が豆鉄砲くらつたやうに驚いた。  

ところが、この2大新聞の対比が実は『梟の城』のモチーフという話は、

川口則弘『直木賞物語』(バジリコ,2014)184頁は、

  ・・・という逸話が受賞後に盛んに報道された。

とする。アノ丸谷がたまたま知らなかっただけということ?ちょっと謎。

本書に戻ると、
海音寺の「蒙古来る」(文庫は「蒙古来たる」と改題)と、
司馬のデビュー作「ペルシャの幻術師」の相似点を
述べている件で、気になる一節があった(本書199頁)。

  余談ながら、海音寺が書いていたエッセイの題名を失念してしまったので、
  引用できないが、つぎのようなエピソードがある。/「蒙古来る」の連載中の
  ある日、小田急線に乗り、経堂の駅に帰り着くと、突然、豪雨が襲った。
  いたしかたなく、海音寺が改札口を出て豪雨の去るのを待っているうち、
  さすがの雨もやみかけてはいたが、まだ多少降っていた。/その時、
  海音寺のそばで雨宿りをしていた二人連れの大学生らしい男の一人が、
  駅の売店で夕刊を買ってきて、相手に、/「おい、この『蒙古来る』は、
  めっぽうおもしろいぞ。おまえも、読んでみろよ。雨はやみそうだが、
  まだ、降っているから、この新聞紙を頭にのせて行こうぜ」/と、いうなり、
  二人は外に飛び出していった。/その男の話を近くで聴いていた海音寺は、
  この時ほど作家冥利に感じたことは、後半生を通じてなかった、
  とエッセイの中で書いている。
  
「失念」ではなく勘違いでしょう。これは海音寺の作品でも、
『蒙古来る』ではなく『明治太平記』に関するエピソードですから。
『海音寺潮五郎全集』(朝日新聞社,1971) 第十二巻(明治太平記)の
「あとがき」にそれは出ています(同書566頁)。

  作品[明治太平記]に対する世間の評判も悪くはないようでした。・・・/
  この頃のことです。ある日、外出した女房が俄か雨がやんで間もなく帰って
  来まして、にこにこしながら、/「読売の小説は受けていますよ」/
  と言います。/「どうして、そんなことがわかるのだ」/「今、駅の待合室で
  雨宿りしていたら、学生さんが二人いて、やはり雨宿りしていました。そのうち、
  一人が、『いつまで待っていてもやみそうにないから、新聞を買って、それを
  かぶって走って行こう』といいました。『そうしよう。買って来よう』といって、
  売店の方に行きかかると、『新聞は読売がいいぞ』といいました。『どうして
  読売がいいのだい』『小説がおもしろいからよ』『おもしろいって、濡れて
  しまえば読めないじゃないか』『ばかだなあ。読んでからかぶって帰るのよ』
  『ああ、そうか』といって、読売を買って来て、二人とも読んでから、二つに
  裂いて、頭からかぶって雨の中に走り出して行きました。だから、受けている
  のですよ」/聞いて、涙のこぼれるほどの気持でした。

両者を比べると、海音寺の方が当然だが上手いな。もちろん実話だろうけど。
好評のまま完結した「明治太平記」の第二部、第三部も連載の約束だったが、
掲載紙である読売新聞が大阪でも発行されることになったために、
新たに「蒙古来る」を連載することになったという(同書566~567頁)。
第二部(佐賀の乱を主に神風連、萩、秋月の西国の乱)や
第三部(西南戦争を中心とした物語)も読みたかった(;_;)

海音寺の長篇小説の代表作を挙げると、
『天と地と』『平将門』『海と風と虹と』『蒙古来る』あたりか。 
特に前三作はNHK大河ドラマや映画にもなってて有名ですからね。
『明治太平記』『二本の銀杏』『茶道太閤記』『鷲の歌』『哀婉一代女』『柳沢騒動』
が個人的には好き。どれも後味が悪いというか、結末が苦いけど^^;

か行の棚に角田喜久雄を置くブックオフ(+_+)
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