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杉本苑子『夜叉神堂の男』

色や金に目が眩んだサスペンスやホラーだけでなく
鬼畜系も含む短篇時代小説集で他人には薦められない
杉本苑子『夜叉神堂の男』(集英社文庫,1990)を本日読了^_^;

確定申告手続の会場ではメチャ待たされるので、半分まで読んだ本書を持ち、早朝に出発(^^)

本書収録作品は以下の12篇。

  穴の底
  肌のかおる女
  最後に笑う者
  鳴るが辻の怪
  秋の銀河
  鬼っ子
  ざくろ地獄
  くちなわ髪
  残りの霜
  孕み石
  山の上の塔婆
  夜叉神堂の男

実在の人物は「ざくろ地獄」に吉川経家とか山名豊国とかが出てくる程度かな。
「秋の銀河」の浮世絵師・歌川国春(二代目)と弟子の歌川国安は、
太田記念美術館のカタログ『歌川派展』(1986年)152頁の「歌川派系図(未定稿)」に
両人とも載ってるけど、名前を借りただけなのかしら(..)
「残りの霜」が「夜嵐お絹」を杉本流に仕立て直したもので、
海音寺潮五郎の『哀婉一代女』を思い出させた(;_;)
にしても、どの作品も、ここまで残酷なキャラや凄惨なストーリーをよく思い付くね^_^;

磯貝勝太郎は本書439頁で次のように「解説」してる。

  これらの作品の中には、江戸時代の随筆のたぐいから素材を得て、作者ならではの趣向を
  凝らした短篇があるようにおもわれる。表題作の「夜叉神堂の男」、「鳴るが辻の怪」、
  「くちなわ髪」、「孕み石」、「山の上の塔婆」などの諸作品である。作品とその素材を
  得ている種本ともいうべき近世随筆とのせんさくはさておいて、近世の随筆の中には
  作品の素材が豊富にあり、杉本苑子が数多くの近世随筆を活用していることは、
  次の文章で明らかである。

多くの短篇の参考にしたとして、馬場文耕の『武野俗談』『江都著聞集』、松崎堯臣の
『窓のすさみ』、橘南谿の『東西遊記』『北窓瑣談』を列挙する杉本の文章を引いてるけど、
磯貝勝太郎なんだし、本書収録作品の種本もこれらなのか、別の何かか、知りたかった(..)

さて、確定申告の手続も終わって、ブックオフの開店を待ちながら、本書は読了(^^)

岡本綺堂『【怪談コレクション】中国怪奇小説集 新装版』(光文社文庫,2006)を
ブックオフでゲットできた(^^)v 同書は内容もメチャクチャ面白そうなんだけど、
海音寺潮五郎「綺堂先生に感謝する」という序文が、小生の目当て^_^;

岡本綺堂と言えば、『半七捕物帳』だが、気になってる点をメモしておく(^_^;)

●大村彦次郎『時代小説盛衰史(上)』(ちくま文庫,2012)第一章の〈「半七捕物帳」
が始まる〉という見出しの節に、次のような件がある(同書55頁)。

  「半七捕物帳」が有名になるにつれ、作者は半七が実在かどうか、という質問に
  悩まされた。中には半七を識っている、という古老たちまでが現われた。彼は幕末の頃、
  副業に湯屋を開いていたとか、高野長英の隠れ家に向かった捕方の一人であった、とか、
  伝えられた。また御一新後も警視庁に奉職したとか、時計屋になった、とかいう説もあった。
  綺堂はそれらに対し、明瞭な返事をせず、実在したかについては、読者の想像にまかせた。

ただ、同書56頁は、

  もちろん半七は綺堂の創作した架空の人物ではあったが、その人柄は日常の作者そのものを
  ありのままに反映した。半七老人の語り口は綺堂そのものであり、半七の啖呵もまた綺堂の
  口吻であった。

とする。ところが、これに対して、
・稲垣史生『考証 風流大名列伝』(新潮文庫,2004)156~157頁には、

  語るのは大久保百人町で、今は楽隠居の岡っ引半七であった。このあたりの名物となった
  躑躅の世話をし、新時代に融和してひっそり暮している。坂下門事件についてはあまり
  語らないが、ただ一人、囲碁相手でもある新聞記者の一人に対してだけは気軽に何ごとも
  話してくれた。捕物の話、彰義隊の話、町奉行所廃止の話・・・・・・どれもこれも早や珍しく、
  江戸の貴重な庶民史料にほかならなかった。/聞き手は当時、東京日日新聞の記者
  岡本綺堂で、渋茶一杯で二時間でも三時間でも半七の懐旧談に耳を傾けるのである。・・・/
  ・・・綺堂の名作『半七捕物帳』のタネは、多くこの実在の半七翁から出たものである。

半七は実在したの? 架空の人物なの? なお、稲垣の同書は首を傾げたくなる記述が多い^_^;
   
帰りに某大学購買部で来月発売の中野京子『名画の謎 旧約・新約聖書篇』文春文庫を予約(^^)
そこは老舗の某大書店が運営してるのに、文春文庫の新刊すら入荷しないことがあるから(+_+)
漫画も萩尾望都『王妃マルゴ④』集英社が先月入らず取り寄せ(;_;) しかも代金は前払い(-"-)

その後、昼食を済ませてたら、同購買部から電話があって、取り寄せを先週お願いしていた、
新田次郎『小説に書けなかった自伝』(新潮文庫,2012)が入荷したとの連絡があった(^_^;)
行って受け取ったところ、2012年6月の新潮文庫「今月の新刊」および応募締切2014年1月の
「Yonda?CLUB」の四つ折りチラシが同書に挟み込まれたままで、奥付を確認すると一刷(@_@)
その「今月の新刊」に「〝物語の神様〟新田次郎、生誕百年記念出版2冊発売です。」とあり
(小林信彦を想起^_^;)、「今月のフェア」と推されてたけど、売れなかったのかしら(;_;)

[追記160328]

日本の神話・伝説・昔話・小説の「種本」を知るのに前掲『中国怪奇小説集』は役に立つ(^^)
杉本苑子の本書所収の一篇「鬼っ子」の茶わん屋でのシーン(本書205~207頁)は、どうやら
八島五岳『百家琦行伝』に載る猪之助のエピソードがネタ元らしく、同『はみだし人間の系譜』
(中公文庫,1996)の一篇「ハンパでない猪之助」が同エピソード(同109~110頁)を紹介^_^;
なお、同書は各話の枕噺に首肯できない点もあるけど、畸人・琦行の話ゆえ総じて面白い(^^)
森銑三『偉人暦』(中公文庫,1996)に通ずるものがあり、読了後は一緒にトイレの備品に(^^)
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