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末國善己『夜の日本史』

実作者と評論家の間で起きる論争じゃないけど、歴史を
知らなくても時代小説の評論は可能かと考えさせられた
末國善己『夜の日本史』(辰巳出版,2013)である。

著者は時代小説のアンソロジーも幾つか出してるほどの
文芸評論家だが、小生の好んで読む時代小説の文庫本の
解説等では見かけたことがなく、読むのは今回が初めて。

ケネス・アンガー『ハリウッド・バビロン』(邦訳ある
のに未読 orz)を意識した著者は書名が暗示する通りの
テーマを典拠文献も引用しながら列伝形式に纏めている。

初耳の話も結構あったし、胡散臭い文献も含むため紹介
されている性的関係の真偽はともかくとして面白かった。

惜しむらくは、教養レベルの史実に間違いや恥ずかしい
表現ミスがあること。歴史に関する本は初歩的なミスが
散見されるだけで著作全体までが疑わしくなるし、また
時代小説の文芸評論家としての資質も疑われてしまう(..)

読後にノートしていた箇所を、とりあえず挙げておく。

各人物に先ず「略歴」と題した紹介解説は結構だけど、
歴史上の人物に「略歴」という表現はどこか違和感が^^;

本書18頁(雄略天皇)略歴欄

  「宋書」には南宋へ使節を派遣し・・・

   → 「南朝の宋」、つまり「劉宋」or「宋(南朝)」が正しい。
     そもそも「南宋」は日本では平安・鎌倉時代に当たる。
    
本書27頁(弓削道鏡)注2

  ウォーターゲート事件の匿名の情報提供者が「ディープ・スロート」を
  名乗ったのは有名・・・

  → 「名乗った」ではなく「名付けられた」が正しい。
    ボブ・ウッドワード&カール・バーンスタイン『大統領の陰謀』
    (文春文庫,1980)97頁を引いておく。
    
      彼[ウッドワード]はこのニュース・ソースを「ぼくの友人」と
      呼んでいたが、サイモンズ[編集局長]は有名なポルノ映画の題名
      をとって、「ディープ・スロート」と名づけた。この名前が定着した。

本書36頁(在原業平)

  ところが、平城天皇が・・・クーデターを計画するも失敗。

  → 「平城上皇」が正確。いわゆる薬子の変で復辟を図るも失敗に終わった。

本書53頁(藤原頼長)

  ・・・最初の男色相手は、同じ藤原北家ながら嫡流の藤原忠宗の子・忠雅・・・

  → 忠宗、忠雅の頃はもはや傍流では?

本書56頁(後白河法皇)

  ・・・源頼朝に「日本国第一の大天狗」といわしめたほどである。

  → 河内祥輔『頼朝の時代~1180年代内乱史』(平凡社選書,1990)が、
    この大天狗は高階泰経を指すという解釈を提示して以来、議論あり。

本書74頁(後醍醐天皇)

  ・・・後で後悔することになる。

本書74頁(後醍醐天皇)

  花園天皇は・・・

  → 「花園上皇」が正確。

本書78頁(高師直)略歴欄

  ・・・室町幕府の成立後は将軍家の執事となる。

  → 室町幕府成立以前から高家は代々足利家の執事を務めてた。

本書233頁(松永安左エ門)

  ・・・博多刑務所・・・

  → 福岡刑務所

本書253頁(柳原白蓮)注5陰間侍

  一般に揶揄や嫉妬を含む僭称として用いられる。

  → 蔑称でしょ^^;

図書館の本ゆえ、気になった箇所は付箋が使えないので、
返却期限票を千切って挟んでいた。でも、余りの多さに
途中で面倒になり、以上の点しかノートしてない(-_-;)
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