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後藤謙次『ドキュメント平成政治史』全3巻

田中康夫が芥川賞作家!?岩波も劣化した?
版元を信じて買ってたら、馬鹿をみてたな。

本書は岩波書店から3冊とも2014年に出版され、
Ⅰは「崩壊する55年体制」、Ⅱは「小泉劇場の
時代」、Ⅲは「幻滅の政権交代」が副題です。

週刊誌の書評頁を立ち読みしてたら、著者が
御厨貴と対談してまして、本書を畏れ多くも
戸川猪佐武『小説吉田学校』(角川文庫,1980~81)
全8部の平成版と自負している云々と御発言。
御厨も学術研究で「小説」だと引用できぬが、
本書は引用できるので有難いとか応じてます。
マジ?と借りて読んだのですが、戸川どころか
鈴木棟一のにも及ばないとがっかりです(3月)。

なぜなら素人にも不正確と思われる点が散見。
特に記述の前後の矛盾は、原稿や校正の段階で
岩波の担当編集者が気付かなかったのかしら。

とりあえず気になった記述を列挙してみます
(今さらですが、[ ]内は引用者注です)。

Ⅱ25頁
「[自由党]幹事長藤井裕久」
⇔26頁
「自由党の幹事長野田毅が・・・」

Ⅱ138頁
「田中[康夫]が・・・同じ芥川賞作家の石原慎太郎が」

Ⅱ270~271頁
「二〇〇二年九月三〇日、初めての内閣改造・・・」
「・・・防衛庁長官に石破茂が起用された」
⇔304頁
「この時[2003年9月]の内閣改造で・・・防衛庁長官
 石破茂・・・ら将来を嘱望された若手を次々と登用した」

Ⅱ304頁
政調会長に額賀福志郎、幹事長代理に久間章生の起用を
「野中広務は『毒まんじゅうの食わせ方がうまいんでしょう』」
→毒まんじゅうは総裁選で「小泉支持を表明」(300頁)した
 村岡兼造への批判のレトリックとして紹介すべきでは?
 
Ⅱ427頁
「修学旅行」
→「卒業旅行」の方が比喩として適切

Ⅲ176頁9行目
「法案」
→「決議案」

Ⅲ371頁「死者・行方不明者は三万人に迫る」
⇔3行後「三年半経った・・・死者一万五八八九人、行方不明者
 二五九七人に達し」
⇔387頁「一ヵ月が経った・・・時点で死者は・・・一万三〇一三人・・・
 行方不明者は一万四六〇八人」と読んでて頭が混乱。

Ⅲ469頁
小沢公判で検面調書が証拠採用されなかった理由が
「この根拠となったのが・・・ICレコーダーの存在だった」
だけで、後世の人間が理解できますかね?

Ⅰは予約が多くて即返却したのでメモしませんでした
(愚書と小生に分かれば良く、正誤表を作る義理ないし)。

更に疑問なのは取り上げてしかるべきエピソードや
言葉が紹介されていないことです。例えば、Ⅰなら
小沢自民幹事長が経団連に多額の選挙資金を要請した
剛腕ぶりは出てないし、大蔵省接待汚職事件の記述も
話題になった「ノーパンしゃぶしゃぶ」という言葉が
ないです。Ⅱだと小泉首相の公約軽視発言、非戦闘
地域発言を取り上げないのは流石におかしくない?
Ⅲも防衛省沖縄防衛局局長の不適切発言問題で「女性
蔑視の言葉」(451頁)としか書いてなくて隔靴掻痒。

勿論、歴史叙述において何を記載するかしないかは
執筆者の取捨選択に委ねられているわけですけどね。
でも、当時よく知られて問題視されたエピソードや
言葉が載ってないと、本書を読んでも平成政治史を
肌感覚で追体験することは難しいんじゃないかしら。

著者は執筆にあたり年表を作らなかったのでしょう。
歴史を書くには手控えとして年表を作るのがフツー
だと思いますが。作らないから、見落としが生じる。
歴史の本なのに年表が付いているのはⅢの巻末だけ。
しかも、その年表が平成の24年間を僅か7頁です!
こんなおざなりのものでは役に立たないでしょう。

また本書には索引がないです。この手の本(例えば、
戸川猪佐武「昭和の宰相シリーズ」[講談社,1982]
全7巻)には付いているはずの人名索引が本書には
ないのです。また事項索引も付いておりませんね。

おそらく人名・事項索引を付けても薄っぺら~い
代物にしかならないので作成しなかったのでしょう。
というのは、通読してびっくりしたのは、本書では
有名な政治家しか登場・活躍しないのです。まるで
平成の政治が十数人足らずの政治家だけで動かされ
ていたかの印象。通常は有名=有力政治家ですから
自然と登場頻度が多くなるのは理解できます。でも
他の有象無象扱いの政治家たちは総裁選・代表選の
推薦者名簿に出てれば御の字で、この24年間ずっと
国会議員してるのに本書に名前が一度も出てこない
センセイは有権者・支援者に顔向けできるのかしら。
政治記者歴32年の著者は有名政治家のみ取材対象?

言及してる政治課題が消費税や郵政民営化など政局
がらみが主なので事項索引も付けようがないですね。

政治記者歴32年の取材メモが主たる資料なんだろう
けど、Ⅲの巻末の参考文献リストも寒すぎません?
宣伝臭・立志伝臭が強いけど、政治家本って意外に
出てるのに、参考文献リストには挙げられてません。

著者の『小沢一郎50の謎を解く』(文春新書,2010)も
10年9月に読んで低評価と当時の手帳に出てました。
早く気付いてりゃ、重い本3冊借りずに済んでたorz

イチローもガラケー派のようだ(Number876号参照)。

[追記]
思うところがあって、本棚の奥の方にしまったままだった、
金井美恵子『本を書く人読まぬ人 とかくこの世はままならぬ』(日本文芸社,1989)を
引っ張り出し、「文学賞あれこれ」と題する文章を斜め読みしてたら、同書42頁に、

  ・・・たとえば、芥川賞というものが、村上春樹、村上龍、田中康夫、尾辻克彦、唐十郎、
  池田満寿夫(このリストは間違っているかもしれないが、芥川賞というものに関する記憶は
  誰でもこの程度のものだ。)と、華やかで多彩な現代的才能の持ち主を選ぶ一方で、・・・

とあり、〈そんな記憶の持ち主は他にいないだろぉ~〉と笑いながら読んだことを思い出したが、
愚かな本書の記述によって、「芥川賞というものに関する記憶は誰でもこの程度のもの」
という件が、金井の慧眼だったことに四半世紀も経ってから気付かされた(^_^;)

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