西條八十『女妖記』
高名な詩人が綴る自らの女性遍歴だが、
エロくなく、むしろ感動的な余韻すら残ったりもする、
西條八十『女妖記』(中公文庫,2008)を読了。
私小説なのかノンフィクション(自伝)なのか、
西條八十自身も「あとがき」(本書269頁)で、
・・・どこまで事実だか、フィクションだか、
自分にもわからなくなってしまう。
というのだから、本書は分類泣かせだな。
伝奇、ホラー、ファム・ファタール・・・などなど、
各話どれも面白く一気に読めた(本書173~174頁は
眉を顰めたくなる行為だったが)。その中の一篇で、
八十が「・・・みだらな幻想の上に、氷水をぶち掛けられた
ような気がした」、「・・・一種荘厳な感じにうたれた」
という件(本書152頁)は、読みながら八十と同じ心境で
その後の展開を予想(期待?)していたために、
久々に小説を読んでて胸をうたれた瞬間だった。
108円の棚にあったら、速攻で買うことにする。
それにしても、八十のモテっぷりが半端ない。
(本書138頁)
今ならファンと呼ぶのだろう。若い頃、
ぼくの抒情詩にあこがれて、手紙をよこす
女性の数は実に多かった。
と自負し、次々と女性からアプローチされるわ、
(本書118頁)
ある日、ふと或る婦人雑誌をめくっていると、
ぼくの尾行記が出ていた。
こんなにモテモテの人気詩人が現代にいるかしら?
八十という詩人がなぜ当時これだけモテたのか謎。
でも、世の中うまく出来ているもので(?)、
(本書110頁)
ぼくは、自分でくやしいほど女性に対しては優しい。
だから、八十は女性に振り回されている観がある
(ので正直あまり羨ましくはないねぇ)。
しかも、目の前に現れ、遭遇するのは「女妖」。
この「女妖[じょよう]」とは何なのか、
ポイントになりそうな叙述をメモっておく。
(本書209頁)
・・・山の温泉のおもいで話を書く。/
これに出てくるのは「女妖」ではない。
もっと軽く、そして幾分愛嬌のある、まあ
「妖精(フェイヤリ)」のたぐいだろう。
(本書238頁)
・・・その娘に再会した。そして彼女の中に
「女妖」を発見する段取りとなった。
(本書あとがき271頁)
・・・ぼくはこの物語の中で、当人に迷惑を掛けまい
という心づかいから、遭遇した「女妖」の中の
もっとも興味深い大多数を割愛した。
読売がベルリン五輪の観戦記&即興詩を書かせんと
八十を「捕獲」「監禁」「酷使」した話は凄いね。
八十の方も「比較的弱小な『読売』の事業部長
[宮崎光男]・・・」(本書231頁)とか「とにかくケチな社で・・・」
(本書234頁)と悪態をついてて、中央公論新社は
本書をよく出せたな。1999年に読売グループが
中央公論社を救済・吸収した直後、読売を批判する
内容の中公文庫が・・・の記憶がある(記憶違いかな?)。
八十がベルリン五輪の開会式の印象を詠んだ詩を、
山川均が文春1936年9月号で「強烈に批判した」と、
坂上康博『権力装置としてのスポーツ~帝国日本の
国家戦略』(講談社選書メチエ,1998)226頁は紹介。
もしや釈明のために観戦記&即興詩の内幕を書いた?
女性1人なら「彼女」だが、女性2人を指して
「かれら」としてるが(本書180,219頁)、これは
八十の文章の癖なのか?ちょっと気になった。
他の気になったところも抜き書きしておく。
(本書85~86頁)
当時の向島は洋装で、ポータブル蓄音機をぶら
さげて座敷へ現れる、いわゆるレコード芸者が
最初に出たところで、芸者の名にも「ラジオ」
だの「ビクター」「コロムビア」などがあって、
万事が先端的で面白い遊び場所だった。
(本書237頁)
オリンピックの聖火を十二日もかかってはるばる
ギリシャ、アテネの野から運ばせるという案は、
やはりゲッペルスの頭脳から出たもので、
ゲッペルス亡き今日も、世界オリンピック競技が
つづく限り、かれの霊は聖火の中に残っているのだ。
不勉強にも知らなかったので、本棚にあって未読の
平井正『ゲッペルス~メディア時代の政治宣伝』
(中公新書,1991)を調べると次の如く書かれていた
(同書175頁)。
大会そのものはナチ以前から準備されたもので、
聖火リレーのアイデアをはじめ、競技としての
ベルリン・オリンピックの成功はカール・ディーム
博士を中心とするスポーツ関係者の成果であって、
ナチの成果ではない。
(本書246頁)
若い日の放恣なパリ生活のいろいろな遊び相手を
想起させた。『雀』のルイザもその一人だ。/
ルイザは雀を飼ってゐた・・・
雀って、飼うことできるのか・・・パリの雀だから?
三浦一郎『世界史こぼれ話5』(角川文庫,1976)に、
西條八十のエピソードが3つ載ってた(モチ出典不明)
本書も週刊文春の連載コラム「文庫本を狙え」で、
坪内祐三が取り上げてたもので、ハズレがないな。
肌色カバー時代の中公文庫こそ最強だったorz
エロくなく、むしろ感動的な余韻すら残ったりもする、
西條八十『女妖記』(中公文庫,2008)を読了。
私小説なのかノンフィクション(自伝)なのか、
西條八十自身も「あとがき」(本書269頁)で、
・・・どこまで事実だか、フィクションだか、
自分にもわからなくなってしまう。
というのだから、本書は分類泣かせだな。
伝奇、ホラー、ファム・ファタール・・・などなど、
各話どれも面白く一気に読めた(本書173~174頁は
眉を顰めたくなる行為だったが)。その中の一篇で、
八十が「・・・みだらな幻想の上に、氷水をぶち掛けられた
ような気がした」、「・・・一種荘厳な感じにうたれた」
という件(本書152頁)は、読みながら八十と同じ心境で
その後の展開を予想(期待?)していたために、
久々に小説を読んでて胸をうたれた瞬間だった。
108円の棚にあったら、速攻で買うことにする。
それにしても、八十のモテっぷりが半端ない。
(本書138頁)
今ならファンと呼ぶのだろう。若い頃、
ぼくの抒情詩にあこがれて、手紙をよこす
女性の数は実に多かった。
と自負し、次々と女性からアプローチされるわ、
(本書118頁)
ある日、ふと或る婦人雑誌をめくっていると、
ぼくの尾行記が出ていた。
こんなにモテモテの人気詩人が現代にいるかしら?
八十という詩人がなぜ当時これだけモテたのか謎。
でも、世の中うまく出来ているもので(?)、
(本書110頁)
ぼくは、自分でくやしいほど女性に対しては優しい。
だから、八十は女性に振り回されている観がある
(ので正直あまり羨ましくはないねぇ)。
しかも、目の前に現れ、遭遇するのは「女妖」。
この「女妖[じょよう]」とは何なのか、
ポイントになりそうな叙述をメモっておく。
(本書209頁)
・・・山の温泉のおもいで話を書く。/
これに出てくるのは「女妖」ではない。
もっと軽く、そして幾分愛嬌のある、まあ
「妖精(フェイヤリ)」のたぐいだろう。
(本書238頁)
・・・その娘に再会した。そして彼女の中に
「女妖」を発見する段取りとなった。
(本書あとがき271頁)
・・・ぼくはこの物語の中で、当人に迷惑を掛けまい
という心づかいから、遭遇した「女妖」の中の
もっとも興味深い大多数を割愛した。
読売がベルリン五輪の観戦記&即興詩を書かせんと
八十を「捕獲」「監禁」「酷使」した話は凄いね。
八十の方も「比較的弱小な『読売』の事業部長
[宮崎光男]・・・」(本書231頁)とか「とにかくケチな社で・・・」
(本書234頁)と悪態をついてて、中央公論新社は
本書をよく出せたな。1999年に読売グループが
中央公論社を救済・吸収した直後、読売を批判する
内容の中公文庫が・・・の記憶がある(記憶違いかな?)。
八十がベルリン五輪の開会式の印象を詠んだ詩を、
山川均が文春1936年9月号で「強烈に批判した」と、
坂上康博『権力装置としてのスポーツ~帝国日本の
国家戦略』(講談社選書メチエ,1998)226頁は紹介。
もしや釈明のために観戦記&即興詩の内幕を書いた?
女性1人なら「彼女」だが、女性2人を指して
「かれら」としてるが(本書180,219頁)、これは
八十の文章の癖なのか?ちょっと気になった。
他の気になったところも抜き書きしておく。
(本書85~86頁)
当時の向島は洋装で、ポータブル蓄音機をぶら
さげて座敷へ現れる、いわゆるレコード芸者が
最初に出たところで、芸者の名にも「ラジオ」
だの「ビクター」「コロムビア」などがあって、
万事が先端的で面白い遊び場所だった。
(本書237頁)
オリンピックの聖火を十二日もかかってはるばる
ギリシャ、アテネの野から運ばせるという案は、
やはりゲッペルスの頭脳から出たもので、
ゲッペルス亡き今日も、世界オリンピック競技が
つづく限り、かれの霊は聖火の中に残っているのだ。
不勉強にも知らなかったので、本棚にあって未読の
平井正『ゲッペルス~メディア時代の政治宣伝』
(中公新書,1991)を調べると次の如く書かれていた
(同書175頁)。
大会そのものはナチ以前から準備されたもので、
聖火リレーのアイデアをはじめ、競技としての
ベルリン・オリンピックの成功はカール・ディーム
博士を中心とするスポーツ関係者の成果であって、
ナチの成果ではない。
(本書246頁)
若い日の放恣なパリ生活のいろいろな遊び相手を
想起させた。『雀』のルイザもその一人だ。/
ルイザは雀を飼ってゐた・・・
雀って、飼うことできるのか・・・パリの雀だから?
三浦一郎『世界史こぼれ話5』(角川文庫,1976)に、
西條八十のエピソードが3つ載ってた(モチ出典不明)
本書も週刊文春の連載コラム「文庫本を狙え」で、
坪内祐三が取り上げてたもので、ハズレがないな。
肌色カバー時代の中公文庫こそ最強だったorz
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